最強のむし歯予防〜フッ化物洗口

わが国の盲点

わが国において、諸外国に比べ、むし歯とくに永久歯のむし歯予防が進展しない理由を考えると、“砂糖の摂取制限”と“歯みがき”に偏重しすぎたためといわれています。

「甘いものは控えよう」「食べたらすぐ歯をみがこう」

などとする指導が長年にわたり行われてきました。
しかし、甘味制限は個人の努力に委ねられること、また、歯みがきでプラークを100%除去することは不可能であり、歯ブラシが届かない小窩裂溝や隣接面からむし歯は好発することから、あまり有効な方法とはいえません。
1985 年にWHOは日本の歯科保健・医療を以下のように評しています。

1.砂糖消費量は先進国の中で最も少ない。
2.歯科医師数は充足し、優れた歯科医療サービスが提供されている。
3.保健所で、歯科保健指導やむし歯予防サービスが行われている。
  しかし、他の先進諸国と比較したとき、日本の歯科医療には
  もっとも重要なものが欠けている。 それはフッ化物の利用である。

また、たとえば米国では、むし歯予防法としてのフッ化物応用と砂糖摂取制限(甘いものを控える)は「A」ランク(勧告する確かな根拠がある)と高く評価されるのに対し、個人的な歯科衛生(フッ化物の配合されていない歯みがきやフロス)は「C」ランク(勧告する確かな根拠がないが他の団体から勧告される可能性がある)と評価されます。

以上のことからもわかるように、むし歯予防の方法により効果に差があります。むし歯予防を効率よく進めるためには“フッ化物の応用”を中心として“食事・間食指導”と“歯みがき”を効果的に組み合わせることが重要となります。

むし歯治療の基本的知識

今まで私たちは、むし歯を削って詰めてもらったら、治ったと思っていました。
しかし、治ったはずなのに、再発します。
そうすると「甘味制限/歯みがきが足りなかった」といって歯科医師の前で自分を責めます。

じつはこれは治ってなかったからです。
「甘味制限/歯みがきが足りなかった」ではなく、歯を削る行為そのものがきわめて危険だったからです。

削ったり詰めたりした歯(修復物)は、平均寿命が大体5〜10年程度といわれています。
また、数回治療を繰り返すとその歯は抜歯になる可能性が極めて高いことも分かっています。

しかし「私の治療だけは大丈夫」と日本中の歯医者で言っていて、今日も歯が削られて、歯が失われています。

むし歯予防の基本的知識

むし歯は、歯が生えて間もない時期(萌出後2〜3年)になりやすいことがわかっています。
永久歯は、おおよそ4〜5 歳から小・中学校の頃に生えかわるため、その時期にしっかり予防しておくことが大切です。

生えて間もない永久歯(幼若永久歯)のエナメル質はまだ未成熟なため結晶構造が不安定で、多くの不純物を含んでいます。そのため、酸に対して弱く、酸で溶かされやすくなっています。一方、成人のエナメル質は成熟し、結晶構造が安定しているので、酸に溶かされにくくなっています。

永久歯は、おおよそ保育所、幼稚園、小・中学校の頃に生えかわるため、この時期がむし歯の一番できやすい時期にあたります。この時期にフッ化物洗口が行われることが大きな意味を持ちます。

フッ化物の応用方法と効果

フロリデーション(水道水フッ素化)

水道水にごくごく低濃度(1〜2ppm)のフッ化物を混入させる方法です。
日本では反対派が強く、実施されていませんが、世界62カ国で行われています。
50〜70%の予防効果があります。
コストも実質無料です。
インドのように、たまたまガンジス川のフッ素濃度が適切で、流域住民のむし歯が非常に少ない例もあります。

フッ化物洗口(ミラノールによるうがい)

当歯科室でも採用した方法で、継続的に低濃度(250〜500ppm)のフッ化物でうがいします。
日本では平成12年に薬事法が改正され、突然入手が困難になってしまいました。
現在は、物品として販売はできませんが、自由診療として処方する形になります
40〜60%の予防効果があります。たいへん安価です。

フッ化物塗布(歯科医院)

年に2回程度、高濃度のフッ化物(9000〜14000ppm)を歯に塗布する方法です。
日本では、これがフッ化物の主たる応用だと思われていますが、フロリデーションやフッ化物洗口と組み合わせないと十分な効果を発揮することができません。
10〜40%の予防効果があります。それなりにコストがかかります。

市販の歯みがき粉

残念ながら、日本の場合は薬事法で、有効な濃度までフッ素濃度を上げることができません。
また、歯みがきの後は一般的にすぐにゆすいでしまうので、効果はほぼないといっていいでしょう。
専用の歯みがき粉(ジェルコートF、レノビーゴ等)を用いても、15〜30%の予防効果です。また、比較的高価です。
ただし、フッ化物洗口の効果を行き渡らせるために、あらかじめすみずみまでブラッシングすることには大きな意義があります。

フッ化物洗口によるむし歯予防の作用機序

フッ化物洗口は、下記の4つの作用によってむし歯を予防します。

歯質の強化

エナメル質アパタイトの結晶性の向上と、フルオロアパタイトの生成によりむし歯原因菌が産生する酸に溶けにくい強い歯質にします。

萌出後のエナメル質の成熟の促進

エナメル質アパタイトは、構成成分のなかに種々のイオンが混在する結晶性の低いアパタイトです。フッ化物は、エナメル質アパタイトに混在する種々のイオンを追い出し、質的に完全なアパタイトへ成熟させます。

再石灰化とむし歯の進行抑制

低濃度・高頻度に応用されるフッ素イオンが脱灰されたエナメル質の再石灰化を促進し、初期むし歯(むし歯になりかけたエナメル質)を修復します。 また、フッ化物洗口により、脱灰と再石灰化の均衡がとれる(脱灰=再石灰化)か、日常的に再石灰化が優勢になる(脱灰<再石灰化)ため、むし歯の進行は抑制され停止したままとなります。

口腔細菌の代謝活性抑制作用

歯質強化以外の作用としては、細菌のもつ酵素の働きを弱め、酸の産生やプラークの形成を抑制する働きがあります。

フッ化物応用は、低濃度で、長期間継続して、しかも高頻度に行われることが重要なポイントになります。

フッ化物洗口のむし歯予防効果

最近のわが国の報告によれば、フッ化物洗口によるむし歯予防効果は約30 〜 80%と、むし歯をほぼ半減できる効果があり、とくに前歯部のむし歯予防に著効します。

第一大臼歯の萌出時期である就学前から第二大臼歯の萌出時期である中学生時代まで継続して実施することが確かな予防効果につながります。

エナメル質の成熟期にフッ化物洗口を経験することにより、脱灰に対する強い抵抗力を持つ歯になるからです。この予防効果は洗口を止めた後も継続しています。

ご参考までに、平成20 年度の滋賀県の実績でも、小学校6年生の一人平均むし歯数において全国と同様、約45%のむし歯抑制率を示しています。

フッ化物洗口の歯科医療費抑制効果

中学校1年生一人平均むし歯数とその世代の一人平均年間歯科医療費には強い正の相関性があります(滋賀県)。平成18 年度では、自治体で中学校1年生のむし歯を1本減少させれば、その世代の歯科医療費を年間4,256 円減少させることができるという計算になります。

ミラノール洗口液を使用した場合、年間に要する費用は一人約700 円ですから、その費用対効果は 約4倍となります。

フッ化物応用 Q&A

Q.フッ素とはどのような物質ですか。

A.自然界に広く分布している元素です。
フッ素(F)は天然に存在する元素のひとつで原子番号9、原子量19 です。周期律表のなかでハロゲン族に分類され、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などが仲間の元素です。
フッ素はたいへん反応性が強い元素で、自然界では単一の元素として存在することはありません。自然界に広く分布し、土壌中に280ppm、海水中に1.3ppm含まれ、私たちが毎日飲んでいる水道水や食品(海産物、肉、野菜、お茶など)にも含まれている自然環境物質です。もちろん私たちの体の骨や歯、唾液、血液などにも存在しています。

Q.フッ素は人体にとって必要なものですか。

A.はい、フッ素は必須微量元素です。
WHO(世界保健機関)やFAO(世界食料農業機関)はフッ素をヒトにとっての必須元素と考えています(1974)。全ての栄養素がそうであるように、多すぎても少なすぎても健康にはマイナスになります。フッ素も同様に適量を確保することが歯科保健上の重要なポイントになります。

Q.歯みがきだけでむし歯の予防ができませんか。

A.歯みがきだけでは不十分です。
歯みがきでプラークを100%除去することは不可能です。歯ブラシが届かない臼歯(奥歯)の小窩裂溝(みぞ)や隣接面(歯と歯の間)からむし歯は好発することからも分かります。
ですから、フッ化物配合歯磨剤を使わない歯みがき習慣はむし歯予防の効果が極めて低いものとなります。 むし歯予防を効率よく進めるためには“フッ化物の応用”を中心として“甘味の適正摂取”と“歯みがき”を効果的に組み合わせることが重要となります。

Q.フッ化物の応用は、大人にも効果がありますか。

A.大人でも有効です。
大人の歯は、子どもの歯に比べてエナメル質は成熟し、ある程度強くなっています。しかし、歯周病により歯槽骨が吸収され歯肉が退縮すると、セメント質や象牙質が露出し、その部分に根面う蝕(歯の根の部分のむし歯)が発生しやすくなります。
また、かみしめや歯ぎしり・食いしばりの蓄積に伴って、隣接面(歯と歯の間)にひびが入り、そこからもむし歯が好発するようになります。
フッ化物はこのようなむし歯の予防にも効果があることが確認されています。このようなことから、大人に対してのフッ化物応用は有効です。

Q.一般に、安全・危険はどのように判断したらよいですか。

A.使用する量が適量かどうかで判断します。
ある物質が安全か危険かを判断するときには、その物質が含まれている(あるいは体内にとり入れられる)「量」の問題を必ず考慮にいれなければなりません。
例えば、食塩はわれわれ人間が生きていくうえで欠くことのできないものですが、多くとりすぎると高血圧など生活習慣病の原因になります。
むし歯予防におけるフッ化物利用も、このような考え方を基本として高い安全性が確保されています。フッ素の場合、むし歯予防のための適正なフッ素摂取量(適正摂取量)は体重1kg あたり1 日0.05mg(20kgの子どもで1 日1mg)で、この量までは摂取しても安全であると言われる量(摂取許容量)はその2 〜 5 倍となっています。

Q.フッ化物洗口液を誤って全部飲み込んでも大丈夫ですか。

A.大丈夫です。
最もフッ素濃度の高い週1回法(フッ素濃度900ppm:ちなみに当歯科室は225ppmです)についてみると、洗口液10ml 全量を誤って飲み込んだ場合、9mg(0.9mg/ml× 10ml)のフッ素を体内に摂取することになります。
この場合、軽度な中毒による不快症状(悪心・嘔吐・口渇・発汗など、おもに胃の刺激症状)が発現するフッ素量は、体重1kg あたり2mg とされているので、洗口可能な4歳児の平均体重がわが国では平成17 年でおよそ16.6kg(国民健康・栄養調査)であることから、4歳児の急性中毒量は33.2mg(2mg/kg×16.6kg)となり、一回量を誤って飲んでも問題はありません。

Q.フッ化物をとりすぎた場合どんな影響がありますか。

A.急性中毒と慢性中毒があります。
安全であるといわれている物質でも量がすぎれば悪い影響がでます。フッ素も同様で、適量では身体の栄養、むし歯の予防に役立ちますが、過量に摂取すると中毒を生じます。
フッ素の有害作用は次の二つに分けられます。

急性中毒

一度に多量のフッ素を摂取したときに生じるもので、吐き気、嘔吐、腹部不快感などの症状を示します。フッ素の急性中毒量は、体重1kg あたり2mgです。通常むし歯予防に利用するフッ化物(フッ化物洗口、フッ化物塗布、フッ化物配合歯磨剤)では、適量使用しているかぎり中毒を起こすことはありません。

慢性中毒

長年飲料水等により過量のフッ素を摂取したときに生じるもので、歯のフッ素症と骨硬化症の二つがあります。
歯のフッ素症となるのは、顎の骨の中で歯が作られている時期に適量の2 〜 3倍以上の量のフッ素を継続して摂取した場合です。
骨硬化症は、適量の10 倍以上のフッ素を数十年摂取し続けた場合に起こることがあります。
フッ化物洗口を正しく実施していれば、上記のような急性中毒・慢性中毒を生じることはありません。

Q.フッ化物洗口を長い間続けていると、フッ素が体に蓄積して害を起こすことはないですか。

A.ありません。
体内に吸収されたフッ素の大部分は尿とともに体外に排出されますが、身体に残ったフッ素は主に骨や歯に運ばれ利用されます。フッ化物洗口で口の中に残るフッ素の量は1日平均約0.1 〜 0.2mgであり、お茶1 〜 2杯に含まれるフッ素量と同量にあたり極めて微量です。
実際、子どもたちは飲食物からも毎日フッ素を摂取していますが、そのフッ素量とフッ化物洗口によって摂取するフッ素量をあわせても、毎日摂取するのが望ましいとされている適正摂取量にも満たないのが現状で、ましてやこの量までは安全とされるフッ素摂取許容量と比べると半分以下です。
したがって、フッ化物洗口で骨や歯にフッ素が蓄積して異常を起こすなど、身体に害の起こる心配はありません。

Q.フッ素はガンの原因になることがありますか。

A.そのようなことはありません。
以前、ある学者から「水道水フロリデーションされている地域では癌による死亡率が高い」という報告がなされていたことがありました。しかし、その後の調査により、統計処理上の誤りであることがわかり、この説は否定されました。また、最近のアメリカでフッ素が実験用動物の癌を引き起こしたという報告がありましたが、その後の検討の結果、まったく問題のないことが明らかになりました。
現在ではアメリカ国立癌研究所をはじめとする専門機関から、水道水フッ化物添加をはじめとする各種フッ化物利用法と癌の発生とは無関係であることが示されています。

Q.6歳未満の子どもにはフッ化物洗口法を用いるべきでないとの意見があるそうですが。

A.一部の国(アメリカなど)では、そのような意見もあります。
水道水フロリデーションやフッ化物錠剤等の全身応用が広く普及している国(アメリカなど)では、6 歳未満の子どもたちがフッ化物洗口液を全量飲み込んだ場合、一日の総フッ素摂取量が過剰になり、歯のフッ素症を引き起こす可能性があるかもしれないと説明されています。
しかし、日本ではフッ化物の全身的応用が行われていないので、フッ化物洗口液が歯のフッ素症を引き起こす可能性は事実上ないと言えます。

Q.病気によってはフッ化物洗口を行ってはいけない場合がありますか。また、障害のある子どもや慢性の病気を持つ子どもは、フッ化物を使うことはできませんか。

A.そのような事実はありません。
正しい応用法では、身体の弱い人や障害のある人でも口腔内残留フッ素の安全性についてもまったく問題はなく、慢性疾患に対するフッ素の禁忌やアレルギーについても報告はありません。むしろ障害があり、ブラッシングなどの歯口清掃が十分に行えない人こそフッ化物応用によるむし歯予防が必要です。

Q.妊娠中や授乳中の母親がフッ化物を摂取することで胎児や乳児に悪影響はありませんか。

A.心配ありません。
水道水フロリデーションを実施している国々において、胎児に対する悪影響および死産や新生児の死亡率増加の報告はありません。
フッ化物は胎盤通過性が低いので、乳歯に歯のフッ素症が出現することはありません。また、母乳からの移行性も低いので、乳児の副作用もありません。

Q.フッ化物洗口やフッ化物配合歯磨剤を毎日使っていると、歯のフッ素症になりませんか。

A.心配ありません。
フッ化物洗口や歯磨剤のようにフッ化物を局所的に応用する方法を正しく行えば、歯のフッ素症になることはありません。
しかし、3歳以下の低年齢児に対しては慎重に用います。
フッ化物による歯の白濁(斑状模様)は、正式には歯のフッ素症とよばれ、歯が顎の中で作られている時期にフッ化物を過量に含んだ水を長期にわたって飲み続けた場合にできることがあります。なお、歯の白濁模様はフッ素以外の原因でも生じます。これらと間違われることも多いようです。

Q.充填物(金属性の詰め物)や、矯正治療の針金などが入っている場合に、フッ化物が何らかの悪影響を与えませんか。

A.悪影響は与えません。
洗口液のフッ素濃度(225 〜 900ppm)は低濃度なので、金属に作用して腐食させるようなことはありません。 その他、「服薬中」ということでフッ化物洗口を実施してよいか心配される方がいますが、洗口液を飲み込むわけではないので実施しても差し支えありません。

Q.むし歯予防のためのフッ化物応用について専門機関はどのような意見を持っていますか。

A.フッ化物応用を推奨しています。
むし歯予防のためのフッ化物応用については、科学的に既に安全性、有効性が十分確立しており、内外の専門機関が一致して推奨しています。特にWHO(世界保健機関)は過去3 回(1969、1975、1978 年)にわたり、加盟各国に対してフッ化物応用によるむし歯予防を実践するよう勧告しています。
わが国でも、1972 年に日本口腔衛生学会がフッ化物応用について、安全かつ有効との見解を示し、歯の健康のためのフッ化物応用を推奨しています。さらに、1985 年には国会で出された質問書に対し、内閣総理大臣は「歯みがき、甘味の制限と併せてフッ化物の応用を行うことが最適のむし歯予防と考えている」と答えています。
さらに厚生労働省は、平成15 年にフッ化物洗口ガイドラインを公表しています。

Prezzo(一例)

初回指導・スターターキット1年分 ¥1,000

追加処方1年分 ¥700
専用ボトル(計量カップ付) ¥300
計量カップ ¥50
(計量カップなしのボトルのみの扱いはありません)