審美修復

はじめに

私がはじめて歯科臨床において審美的なことを、歯だけではなく顔貌とのからみで真剣に意識するようになったのは、『シンメトリーな男 (新潮文庫): 竹内 久美子 著』という本を手にしたことがきっかけでした。著書内では、さまざまな動物の例を引き、体の各器官がより左右対称に近いほど異性にもてるということを繰り返し主張してありました。左右の尾が非対称なツバメに、人工的に尾をつけたらもてるようになったが、外したらまたもてなくなってしまったくだりは非常に印象的でした。賛否両論はあるところですが、少なくとも、顔全体のバランスの中で口許、なかんずく歯列のバランスが対話距離における印象に強い影響を及ぼしていることは否めません。

人間の容貌の良し悪し・魅力に関しては、先天性のもの、後天性のものがありますが、脳に非常に近いところにあり、とくに表情筋などを通じて相互に影響を及ぼしあっていることが指摘されています。また人間には、本能的に目、鼻、口などのバランスを察知する能力があり、鉄道・飛行機・自動車などの乗り物はもちろん、単なる模様に至るまでも、マークのバランスを目・鼻・口になぞらえて擬似的に顔のようなものとして日常的に認識しております。脳手術の後遺症などでこれらの能力が失われることを『相貌失認』というようですが、きわめて重篤な社会生活上のダメージを被るとされています。

視点を歯に戻してみると、1本1本の色調・バランス、全体のバランスが取れていることはもちろんですが、歯と歯肉の調和、生え際のバランスも無視できないポイントです。もしそれらのバランスが取れていないと、一部のプロを除いては直接(バランスのこことここが取れていない)という理解にはなりませんが、間接的に清潔感が損なわれたり、明朗さが妨げられたりというような、無意識のイメージに変換されてとらえられることが一般的です。

オールセラミックス(クラウン・ラミネートベニヤ)

いわゆる芸能人が歯を白くするのに審美歯科でもちいている材料がオールセラミックスで、現存する歯科材料の中でもっとも透明感・質感ともに豊かに美しく仕上げることができます。

また優れた発色システムが完備していて、レジン系では難しい非常に細密なデザインが可能なほか、セラミック自体に吸水性がなく、生体親和性に優れ、一切変色しません。

また、色調が半透明のアイボリーなので、光の透過性が非常に歯と似ており、金属を用いない ファイバーコアと併用することで、現在考えられるベストの審美性と自然な感じを獲得することができます。

一部のケースでは適応症にならない場合があります。詳しくはご相談ください。

ノンクラスプデンチャー

いわゆる取り外しの入れ歯の最大の欠点は、何度も申しますが、バネでした。 バネのかかる歯に横の力がかかる点、食べかすが詰まりやすい点などもそうですが、何と言っても審美的には対話距離でのスマイルに対する躊躇が無視できません。

体質その他の事情などからどうしてもインプラント治療の選択には一抹の不安が残るケース、ブリッジにするために健康な歯を大幅に削ることを回避したい場合、または歯の欠損の数がやや多く、そもそもブリッジの適用がこのましくないようなケースには、とても向いています。

これは簡単に言うと、いわゆるバネのない入れ歯で、自らの弾力性で口の中に装着されます。色調は半透明なので、装着するとなかなか入れ歯と肉の境界線がわかりにくく、しかも非常に軽いので、とりあえず入れ歯の見た目・違和感が気になる方にはファーストチョイスかもしれません。

事実アメリカでは、インプラント治療時の仮義歯としてこのタイプの入れ歯が多く用いられています。しかしやはり取り外し式の入れ歯なので、お手入れの煩雑さは残ります。加えてこのタイプの入れ歯には専用の洗浄剤を使用する必要があります。また、総入れ歯に近い症例などでは、この材料を選択するメリットがない場合もあります。

耐久性は万全というわけではなく、5年くらい使用すると固くなってきたりして再製作が必要なことが多くなってきます。
したがいまして、ノンクラスプデンチャーに限っては、5年間の保証期間を設けておりません。

保険でもできる、白くて美しい歯

ファイバーコア

ファイバーコアというのは、上の図の下側にあるような差し歯の土台のことです。

ファイバーコアについては、「治療について」の項目の「治療上の工夫」というページで、芯材のファイバーポストを中心に説明してありますので詳細はそちらに譲ります。

このように、耐久性や審美性において金属製のメタルコアから長足の進歩を遂げたファイバーコアですが、2015年までは保険適用外で、当歯科室では1本1万円でお出ししていました。

また、歯科には「昭和51年課長通知(昭和51・7・29保文発352)(昭和51・11・26保険発115)」というものがあり、コアが保険だとその上に自由診療のセラミックなどはかぶせられず、コアが自由診療ならその上に保険の銀歯などをかぶせられない、という縛りがあります。要は、土台とかぶせ物は両方、保険か自由診療に統一せよということです。

この縛りのおかげで、2015年までは保険希望の患者様に対して、おもに耐久性の面で歯がゆい思いをしたことは数知れません。しかし、保険のものは質の低いそれなりなものだから値段的な差があるんだと自分にも言い聞かせていました。

それが2016年以降は、まったく同じファイバーコアが、自由診療では1万円なのに保険では数千円というほぼ原価のような値段で、という逆ザヤ問題が生じてしまいました。3~4000円の値段では作成の手間を考えると完全に赤字です。しかしおもに耐久性の面で歯がゆい思いをしてきたことを考えると、安心料だと自分に言い聞かせています。

ファイバーコアの場合は色調が半透明のアイボリーなので、光の透過性が非常に歯と似ており、金属を用いないオール セラミックスと併用することで従来の差し歯では考えられないような審美性と自然な感じを獲得することができます。

CAD/CAM冠(ハイブリッドセラミック)

白い歯には大雑把な分類で3種類に分かれます。

◆ プラスチック
◆ ハイブリッドセラミック
◆ セラミック

CAD/CAM冠の説明をする前に、まずプラスチックとセラミックについて整理しておきます。
「プラスチック」という言い方は日本独自で、英語でプラスチックのことはレジンと呼び、プラスチックとは日本語では可塑性、賦形性のことを指しますが、ここでは便宜的にプラスチックという言葉を用います。これは、入れ歯の歯や仮歯のような純然たるアクリルから、保険適用の、プラスチックとセラミック成分が半々くらいで混さった混合プラスチック(コンポジットレジン)のことを指します。加工性、研磨性、接着性に富むので補修などには向きますが、劣化や摩耗しやすいのが欠点です。

セラミックとは、完全な陶材(瀬戸物)のことです。陶芸のように築盛するものや、キャスタブルセラミックといって融かして高温で鋳型に押し込めるものもあります。また「エンジェルクラウン」のように、サイコロのような陶材ブロックをプログラム通りに機械で歯型に削り出していくものもあります。色調が完全に不変で、極端に耐久性が高いものの、安定性が高すぎて加工性、研磨性、接着性がほぼありません(セラミックは最後はグレージングという艶焼きで輝きを出します)。逆に技工所サイドでは、築盛して焼いて削って焼いて、など非常に自由度が高い材料でもあります。
非常に硬いので相手の歯が天然歯やメタルだと間違いなく摩耗させてしまう一方、もろさがあり端が欠けやすく、いったん欠けると補修が困難なのが欠点です。昔は金属に陶材を焼き付けて使用することが一般的でしたが、現在は欠損の距離が離れていたりしない場合はオールセラミックでかなり作成が可能です。その性質から特に前歯部の修復に向いています。

「ハイブリッドセラミック」のハイブリッドとは、混成とか混合のような意味で、コンポジットレジンに似ていますが、セラミック成分の配合比を8~9割に上げて、よりセラミックらしさを出した素材です。2000年のパラジウム危機のころに歯科金属代替材料としてのハイブリッドセラミックの開発が大幅に進みました。硬すぎず汚れにくく、補修も簡便、しかし10年くらいたつと少し色あせてくることもあります。一番の長所はしなやかさを兼ね備えているので破折が起きにくく、とくに臼歯部の修復に向いています。
これも粘土のように築盛して作るのが一般的でしたが、サイコロのようなハイブリッドブロックをプログラム通りに機械で歯型に削り出していったものをCAD/CAM冠(キャドカムかん)と呼びます。素材が築盛に比べて均一なので、築盛よりも強度が高くなりやすいいっぽう、当然ながら色調は単一で、グラデーションや透明感の差などの審美的な配慮はできません(これは上述のエンジェルクラウンなども同様です)。また内面に金属遮蔽色(オペーク)を塗ることができないので、メタルコアのような金属の上にかぶせると青っぽい影になってしまいますからファイバーコアが必須です。

これもファイバーコアとだいたい機を一にして保険適用になりました。さらに2017年12月より7番が4本そろっている条件で下顎の6番も適用になりました。以前1本5万いただいていたものよりも少なくとも耐久性で有利な可能性が高いというのは、患者様にとって大きな福音です。

高強度硬質レジンブリッジ

これは上述の混合プラスチック(コンポジットレジン)の素材の中に、グラスファイバーの芯材を通したブリッジで、2018年の診療報酬改定で登場しました。やはり7番が4本そろっている条件で④5⑥の形のブリッジか、歯科用金属アレルギーのある場合は⑤6⑦という形に限られます。金属も使わず軽いので、大変良いのですが、歯ぎしり食いしばりがある場合は適応になりません。またブリッジなので④番と⑥番は台形に削らないといけない点は従来ブリッジ同様の欠点です。しかしすでに当該歯に金属製のブリッジや全部冠がかぶっている場合には大変よい選択肢だと思います。

ただ、正直申し上げて、点数が経費の3分の2くらいにしかならないので、残念ながらやればやるほど大赤字で、よほどの事情があるケースに限定させていただいています。

コンポジットレジンインレー

これは私が学生のころから保険にはあったのですが、あまりの点数の低さと接着の劣悪さに、誰もやりたがらなかった修復物です。

昨今は、銀歯の詰め物をコンポジットレジンで置き換える治療(コンポジットレジン充填直接法)が、東京医科歯科大学の田上順次教授たちを中心に推進されて、しばしばテレビでも紹介されています。削ったその場で素材を詰めて光を当てて固めるというもので、簡便で審美的なので視聴者受けは良いようです。
しかし、色合わせや賦形、彫刻、ステイニングなど、非常にテクニックセンシティブで術者を選びます。また、コンポジットレジンは重合時に1~2%収縮する性質がありますので、あまり大きな穴に詰めますと、回数を分けて詰めてもどうしてもレジンが歯質を内側に引っ張ってしまい、応力が蓄積・残存することで知覚過敏や咬合通、境界線出現などのリスクがあります。
また、歯の接点(コンタクト)を含む充填はきわめて難易度が高いのですが、臼歯部のむし歯の8~9割は接点を含む(2級窩洞)のです。これでは使い物になりません。コンタクト処理を口腔内ではなく模型上で済ませられればこんなに楽なことはありません。

そこで、型をとって石膏模型の上で作成したものを接着すれば、少なくとも収縮のリスクはありませんし、コンタクト調整も安心です。これがレジンインレー(コンポジットレジン充填間接法)です。

これを先人たちが嫌がったのは、きちんと歯質に接着できないからです。銀歯なら珪酸セメントのような漆喰で埋めておけば結構持ちますが、これは金属のような弾性がないので、漆喰のような低い接着力ではすぐ割れてしまいます。しかしこの数年で、接着性レジンセメントの強度や耐久性が飛躍的に上昇してきました。この修復物は接着力がすべてといっても過言ではなく、十二分な接着力があって初めて実用性に耐えますので、ようやく日の目を見るようになりました。

最近は保険適用のコンポジットレジンでもかなり耐久性の良いものも出てきました。術者的な使用感はハイブリッドインレーと同等で、短中期的にはマージンが見事に消えます。当歯科室では、レジンインレーとファイバーコアは院長が自作していますが、この素材に関しては半完成品という扱いで、コンポジットレジン充填直接法と同様に、接着後に咬合面の高さの調整や細かい賦形・研磨等を行います。