小児歯科

小児歯科と予防歯科は混同しやすい表現ですが、我々は

 予防歯科~歯科治療の回避のための方法論
 小児歯科~学童期前後の歯科疾患への対処

という違いで言葉を使い分けています。

ただ、この項目をご覧になっている方は、小さいお子様がおいでの方が多いかと思います。
そこで、乳幼児の治療の方法論というよりは、お子様をお持ちのご家庭で参考になりそうなことや、気づきにくい点、ぜひ知っておいていただきたい点などを中心にご紹介したいと思います。

大前提の「仕上げ磨き」

基本的に10歳までは、親の仕上げ磨きが100%といっていいほど大事です。

それまでにお子様に「歯ブラシの毛先がすみずみに当たる感覚」や「すっきりした感覚」を授けてあげることが親の大事なつとめです。

初発乳歯

最初の乳歯は生後半年程度で、通常は下顎の前歯から始まります。
1歳のころは下が4本、上が2~4本のことが多く、2歳までには上下8本づつ揃うのが一般的です。

生えたての乳歯はむし歯になりやすいので、「最後に歯みがきしてから寝るまでに甘いものを食べない」「授乳しながらの寝かしつけの後の朝はしっかり歯のお手入れを」など、1~2歳までは気をつけられる点は注意すべきです。

仕上げ磨きは、どこのご家庭でも最初はお子様が泣きます。かわいそうな気もしますがひるんではいけません。個人差はありますが、すぐになれて安定してできるようになるものです。育児全般もそうでしょうが、根気が何より大事なのは仕上げ磨きも同じです。

むし歯になりやすいのは上or下?

この段階では、圧倒的に上です。下の前歯の乳歯がむし歯になることはほとんどありません。逆にここにできるようであればかなり感受性が高いので、早急に生活全般を見直す必要があります。

パターンは2つあって、ひとつは歯肉よりの唇側の表面が変色してくる場合です。哺乳瓶でジュースやスポーツドリンクなど糖分の多いものを飲ませる習慣があったり寝かしつけ授乳などが長引いたりすると、歯の表面が酸性になり、特に上の表面がむし歯になりやすい傾向があるとされています。
また、もともと表面に生まれつき白濁がある場合もありますが、これはややエナメル質のアパタイト結晶配列の乱れがあり光が乱反射することによって白く見えているものです。油断するとむし歯になりやすいので気をつけましょう。

もうひとつは、正中の乳歯の接点の中央あたりに裏側からできてくるものです。1ミリくらいの茶色っぽいしみのようなものができて気がつくことが多いですが、なぜかとくに正中にできやすいので、ここに食べかすが詰まったままにならないように気をつけましょう。

基本的な管理

食器や口に触るものは大人と乳児で分ける、という考え方は広く知られていますが、実際にノーミスで1年間を通すことは至難の業です。愛や欲やかわいらしさに負けて大人が1回でもキスしてしまったりすると、もう理論上は感染成立を裏付けてしまう形になってしまいます。だからといってその子がむし歯になると決まったわけではありません。

食器類や仕上げ歯ブラシは常識的な分離の扱いで大丈夫だと思います。もちろんミルトンなどと同様の扱いが出来れば超したことはありません
もっとも大事なのは、とにかく歯を不潔な状態に放置せずつねに清潔に保つ努力をすることです。そのためにも仕上げ磨きを頑張って、我慢したお子様をほめて伸ばすことです。

2~3歳くらいになると、自分でも歯みがきしたがるようになります。大変ほほえましいですが、あくまでもそれは予行演習であり練習です。実質的本番はひとえに親の仕上げ磨きです。

仕上げ磨き

一般的にはお子様の頭に対して「12時の位置」におなかが位置するようにひざまくらをすると全体を見やすいです。

写真のように畳やカーペットのお部屋、ソファならオットマンを併用して、お子様にとって段差のない環境で行うとよいでしょう。
9時10時の位置は口腔内処置に慣れてないと逆に難しいです。

まずは歯に順番をつけてしまいましょう。今ご覧になっている方で、仕上げ磨きの順番が決まっていない方は、とりあえず下記のように決めてしまっても良いと思います。

一例(おおむね1歳以降)

頬側(左下奥~下前~右下奥)
~舌側(右下奥~下前~左下奥)
~頬側(右上奥~上前~左上奥)
~口蓋側(左上奥~上前~右上奥)

その際、左下を磨くときは、「左手の親指」で軽く左下の口角(目の下あたり)を押し下げると見やすいです。
逆に左上を磨くときは、「左手の人差し指」で軽く左上の口角を押し上げると見やすいです。ぜひお試しになってください。

◆ 注意点~上唇小帯

なお、上顎の唇のスジ「上唇小帯」が太かったり生え際から生えていて歯と歯が離れていたりするお子様もいます。ここを横にこすると痛がるケースも多いので、そこだけは歯ブラシの柄を縦にして上下にこすり、スジを横にこすらないようにしましょう。

◆ 注意点~上顎臼歯部の咬合面

やってみると分かるのですが、上顎臼歯部の咬合面は角度的に観察が難しくこの姿勢では通常見えません。治療の時も上顎は見にくいので下顎の時よりも大きく背中を倒します。
仕方がないので、歯みがきの最中や後に覗き込むか、ドラッグストアや百均などでデンタルミラーをひとつ入手して確認するようにしたほうが良いと思います。決して高価な物ではありません。

細かい振動で磨く工夫

ストロークは5ミリ以内(乳歯1本分の幅が理想)です。歯ブラシの柄が細かく動いても毛先は歯と歯の間に食い込ませて滑らせないくらいの感じ(スクラビング法の基本的な動き)が理想です。
がしゃがしゃこするとお子様もうっとおしいし、むしろ汚れが目地の中(歯と歯の間)にどんどん詰まってしまいます。むしろ振動を与えた方が汚れが浮き上がってきます。

そうはいっても、手で細かい振動を与えるのはなかなか簡単ではありません。
手首やひじは思ったほどイメージ通りに動かないものです。

私の個人的なちょっとした工夫なのですが、細かい振動は、肩とひじの間の力こぶのあたりを少しだけこわばらせて、プルプルさせることで発生させます。手首やひじは、上腕からの振動を止めないように力を入れず、位置だけ決めていくようにします。

仕事柄ですが、歯の清掃でこじらせたステインやヤニなどがべったりしている場合に、このような細かい振動を超音波スケーラーに与えると、点接触ながら非常に効率的に面的な清掃ができます。その後に仕上げで取り残しを取るときに、はじめて手首主体でコントロールしていきます。

うまくコツをつかむと、振幅が5ミリとか、上手な方は3ミリくらいで全体のブラッシングができるでしょう。
なお、面倒な場合は安価な電動歯ブラシを購入するのも一手です。その際は音波または超音波の振動のものを選ぶとよいでしょう 。

嘔吐反射

臼歯部舌縁や臼歯部口蓋などは乳幼児では敏感な場合も少なくありません。あまりしつこくしてむせてしまってはかわいそうです。
下顎DEの舌側でお子様が反応する場合は、真横ではなく斜め上から毛先を入れる、とか、一旦前歯部に逃げて再度手際よく臼歯部をみがく等の工夫が必要です。
必ずお子様は慣れますし親御様もお子様の感覚が段々分かってきますので、根気が必要なところです。
上顎の場合はDE頬側に出やすいです。また歯ブラシの背中の刺激も苦手なお子様もいますので、頬側をみがくときは口を大きく開けさせずにわざと小さくして、その分頬や口角を横に伸ばして磨く方がお子様の負担も少ないです。

これは大人も同じです。ぜひご自身でもお試しください。奥歯の後ろが磨きやすくなると思います。

上は難しい。特に奥歯。

上顎口蓋側を磨こうとして、あまりにお子様をのけぞらせると、唾液がのどに入って気持ち悪いこともあります。まだ鼻咽腔閉鎖機能が十分でないことも多いのでむせやすいからです。水平よりは首を起こして自分が前に覗き込むようにしてあげたいものです。
ただしこうすると自分の頭で陰になってしまうことが多く、照明や光源の位置を工夫する必要があります。

上顎口蓋側の観察は我々歯科医師でも難しい場所ですので、どうしてもなおざりになってしまいます。
大人の方もご自身で試されると分かりますが、下顎は鏡1枚で見えますが、上顎の裏側や奥は、デンタルミラーや口に入る小さな合わせ鏡などで鏡が2枚ないと見えません。それだけ見えそうで見えない場所です。
口腔内の観察に慣れていない一般の方は、やはりデンタルミラーを一つご用意されて、週1などたまにでもよいので確認されることをお勧めしたいと思います。

◆ 上の奥歯を押してみよう

なかなか大きなお口を開けてもらえない時に、試してみてください。お子様にもよりますが、グッと上の奥歯の咬合面を押してみると、さっと口が少し広がることが多いです。
なお、お子様が嫌がるときは無理なさらないでください。

E

最初のむし歯を下の前歯に作ることは非常にまれです。早いケースは大体前歯の正中の接点の裏側です。
上の前歯の外側がどうも変色してそうだという場合は要注意です。極力生え際を意識してていねいに磨きましょう。

A~Dまでは割とテンポよく萌出しますが、その他の部位はそんなにむし歯になりやすくはありません。1歳半検診を過ぎたころからE(第2乳臼歯;前から5番目に相当)の萌出までにはひと段落ありますので、親御様としては待ち遠しい所です。
通常は2歳~3歳の間に上下左右のEが生えてきます。
乳歯の中では一番後ろ。最後の乳歯で、この萌出をもって乳歯列の完成になり、咬み合わせの評価もある程度読めるようになります。

しかしEが生えてきたら、大事なことがひとつあります。
それは、DとEの接点がむし歯になりやすくなることです。

先ほど上の前歯がむし歯になりやすいと書きましたが、そこをクリアできる、ある程度耐性のあるお子様でも、10歳までにDE間のコンタクトカリエスを初発齲蝕の主訴として来院されるケースがきわめて多いので、強く注意喚起しておきたいと思います。

Eと柄付きフロス

Eが生えたら、DE間のフロスが必須です。

発生学的になぜかわかりませんが、接点の形態が複雑で汚れが留まりやすく、大変むし歯になりやすい場所です。

この場所は、ウルトラフロスのような、柄に対して糸が垂直なフロスで上下左右のDE間を仕上げます。1日1回寝る前だけでも結構です。

Dは4~5年生、Eは小5~中1くらいまで使う歯です。ここにむし歯があるとむし歯菌の拠点になって、他の歯にも多大な悪影響を及ぼしますので、これをご覧になった親御様で垂直な柄付きフロスをお持ちでない場合は、すぐに(当院でも構いませんが)ドラッグストアやスーパーを訪れてお求めいただくことを強く推奨いたします。
このような柄付きフロスは、使い捨てと言っても、切れるまで何度も洗浄して使用できますので、コストパフォーマンスにも非常に優れています。

また、個人差もありますが、乳歯列は全体的に接点がゆるめでわずかに隙間が空いていることが多く、肉や魚がよく詰まります。こんな場合も、そのような柄付きフロスで取ってあげると便利です。

注意点ですが、イトノコのような、柄とフロスが一直線に並んだタイプのフロスは、臼歯部に入れるときに口角を横に引っ張らないと入りません。垂直なタイプですと、正面から入れられますので口角を邪魔しません。当院としては、垂直なタイプのフロスをお勧めしております。

歯磨剤について

ぶくぶくうがいができるようになっても、できれば小さいうちは発泡剤未配合の半透明~透明なジェルタイプの歯磨剤がおすすめです。代表的なところでは、ぷちキッズ(ピジョン)や新習慣ジェル(コンビ)などがあります。
このような歯磨剤は、成人の歯ブラシコーナーよりも、べビザラスや西松屋、バースデイなどの乳幼児用品店の方が揃いやすいです。このタイプの方が泡も出ないし辛くないので、自分磨きするようになったお子様でもある程度長時間ていねいにブラッシングするのに有利です。

成分の中にフッ化第一スズが含まれている場合は、スズイオンの沈着による着色が見られることもあるので、混合歯列期などで心配な場合は避けても構わないと思います。

学童期とフッ素

6歳前後で第1大臼歯、いわゆる6歳臼歯が生えてきます。歯列の一生の中でも大きなターニングポイントです。
こうなると歯科医院でのフッ素塗布がもっとも有効な時期になってきます。

フッ素の最大の強みは、萌出間もない幼若永久歯の強化です。ぜひかかりつけの歯科医院にご相談ください。
定期的なフッ素塗布は、第大臼歯(12歳臼歯)の萌出する小学校6年生頃までは継続したい処置です。
フッ素塗布処置は保険適応外ですが、数千円の低廉な費用で行われることがほとんどです。

またむし歯になっていなくても、臼歯部の溝が深いタイプの方は「シーラント」という裂溝のフッ素コーティング処置もおすすめです。シーラントは保険適応です。

学童期と矯正

8歳ごろになると、上下とも4前歯が生え揃います。
乳歯気にもある程度咬み合わせの将来予測は立ちますが、上下4前歯がそろった状態が一番咬合評価には適した時期です。

この時期に気になることがあれば、ぜひ矯正医への相談をおすすめいたします。
当院では相談は何回でも無料、お子様の矯正「一期治療」は成人の半額で行っております。

一般的に一期治療で咬み合わせの基本的な所を育てていきます。ここで終了しても構いませんが、その後に残った歯の捻転を修正したりきれいに仕上げたいという場合は、大人のようにブラケットを歯にはりつけて針金で動かしていく「二期治療」に移行していきます。

一期治療のポイントは、開始時点でC~Eの乳歯が残っていることです。

この交換期に上手にスペースを拡大してあげると、きれいに永久歯が並びます。
変な位置に3~5の永久歯が生えてしまってからの矯正では、抜歯の本数が多くなったり、インプラントを併用したりと、負担が増してしまうケースが増えてきます。

咬み合わせや歯ならびは、10代を過ぎて自分磨きが始まってからのプラークコントロールに大きな影響を与えますので、一期治療に関してはぜひ前向きに検討していただきたいと考えています。

10代の罠

10歳を過ぎると仕上げ磨きも卒業の時期です。

ここからは親の手を離れてしまいますので、我々から見ますと20歳までのいわゆる10代が歯にとって非常にハイリスクな時期になります。

ここまで親御様がどれだけ的確に仕上げ磨きをしてきたかで、お子様の歯の運命がかなり決まってきてしまいます。

中高生にもなれば、部活帰りのスポーツドリンクやお菓子の買い食いなど、今まで以上に糖分の曝露も増えます。その一方、自我の成長に伴う万能感の影響もあり、根拠なくついつい自分でもきちんとできている気になってしまいます。

しっかり仕上げ磨きされてこなかった人が一人でブラッシングすると、取り残しが多数発生して、高確率で若年性のむし歯か歯肉炎のどちらかを発症してきます。
10代の方の治療は、我々も本当に心が痛みます。

そうならないためにも、9歳までは本気の仕上げ磨きが大事なのです。

お子様の患者様でも、初診年齢が10歳未満ですと、歯ブラシ指導も親御様の仕上げ磨きが中心になり、メンテナンスを通じた家族指導の流れに乗りますが、おおむね10歳を超えると、歯ブラシ指導もお子様ご本人中心に行わざるを得ず、指導の負担のハードルもかなり上がります。
それでも、現在は龍ヶ崎市でも18歳まではマル福適用になりますので、中高生の方も、学校生活の合間にぜひ継続的なメンテナンスを受けていただきたいと思っています。